平成21年3月19日、慶應義塾大学信濃町キャンパスにて平成20年度MEBIOSプログラムの進捗報告会 が開催された。プログラム選抜者の報告に加え、実社会で活躍する博士号取得者や企業の担当者を交えて行ったディスカッションでは、博士人材が研究活動に よって身につける「物事を完遂させる力」に対する期待が示された。
期待される博士の力
技術力と人間力、それが博士人材の魅力」。講演で語ったのは、NTTデータ先端技術株式会社において新卒採用を担当 し、自身も就職後に博士号を取得した秋山照雄さんだ。秋山さんは企業が博士人材に期待する能力として、3つの力を挙げた。1つ目は本質を見極めると同時に 全体を広く見る「ものの見方」、2つ目は物事を論理的に考え、どこに課題があるかを見いだして対策を提案できる「ものの考え方」、そしてプロジェクトの段 取りを考え、それを進めていく「ものの進め方」だ。「研究生活で培ったこれらの力を強みとし、技術力と人間力を磨いていくことが企業において求められる博 士人材像なのではないか」。自身も長く技術職を経験した上で人材育成や採用に携わる秋山さんならではの意見だ。
新たな活躍の場を創る
博士人材を積極的に採用している株式会社リバネスの高橋修一郎さんからは博士人材を活かす自社のユニークなビジネス モデルについての話があった。同社では、インターンシップを通じてコミュニケーションスキルのトレーニングを積んだ博士人材が、入社後も教育現場での実験 教室や科学雑誌の執筆、産学連携やコンサルティングなど多方面で活躍している。高い専門性を持った博士が最先端科学をわかりやすく伝えるコミュニケーショ ン力を身につけることで新たなビジネスを生むこのモデルでは、博士人材の新たな活躍の場の一例が示された。
飛躍への一歩を踏み出そう
「本学と従来からつながりのあった企業経営者たちとの深い信頼関係に基づく議論から、本プログラムが目指す博士像の 条件を描いていった」。と語ったのは責任者の松尾光一准教授。パネルディスカッションでは各パネラーからMEBIOSの目指すべき博士人材像について議論 がなされた。「研究活動において大切なマインドとビジネスにおいて必要なマインドは同じ。業務において計画を立て、目標を達成する力は、研究を完遂させる 力によって身につくはず」。「人材採用を行う際に重視しているのは専門性の高さよりも自社の研究分野への挑戦意欲」。企業で活躍する博士号取得者たちが語 る言葉に、参加者は大きくうなずいていた。
講演者から繰り返し聞かれたのは博士号取得はあくまでも通過点であるという言葉。地道な研究活動を通じて培われる「完遂力」を身につけた上で、分野にと らわれずにそれを活かすことのできる人材は強い。そして彼らの活躍の場は今、広く開拓されつつある。まずは研究室から一歩踏み出し、自分の力を試してみよ う。