平成20年10月、工学研究科と薬学研究科が連携することで深い専門知識と幅広い識見と応用力を備え、産業界や実業界においてグローバルリーダーと して活躍できる博士人材を育成する試みが始まった。このプログラムは主に「産官学交流塾」、「双方向教育型共同研究」、「実践英語教育」、「知財研修」の 4つから構成されている。

 

異分野交流

「もう、工学と薬学の間に壁は感じていません」と産官学交流塾実施委員会委員長の椹木哲夫先生は言う。最初は個別のプログラムとして動き出した2つ の部局が連携したのは、産業界や実業界に対して京大の研究者ならではの人材育成を考えた際、共有できるところが多かったからだ。実際に交わってみると、例 えばバイオインフォマティクスのような「情報系統のつながりから新しい知識や法則性を見出す」ための手法など、思っていた以上に共有している部分が大き かった。さらには、物質と生命の共通原理が垣間見え、工・薬の学問分野が地続きであることを認識できたという。薬学のどの分野も、専門性が非常に多岐にわ たる工学のどこかの分野と共通するところがあるのだそうだ。このように異分野の研究者が集まって議論する文化は、20世紀半ばに異分野研究者を組織しての 共同研究を推進した桑原武夫京都大学名誉教授から始まった、京大の伝統である。

 

「知の互換性」を見出す力

月1回開催される産官学交流塾は、企業や官の研究所から人を招き、工学・薬学出身の受講生が自分の研究を異分野の人に説明する場である。学会での発 表とは違い、いわば「専門領域の壁を取り払っての他流試合」として位置づけられている。初めは異分野の壁を感じていたような受講生も回を重ねるごとに工夫 を凝らした発表をし、議論も活発になってきているという。システム工学を専門とし、常に自分との共通項を探しながら人の研究を聞くという椹木先生にとって も、産官学交流塾は非常に楽しいものだそうだ。さらに先生は受講者に対し、「自分の興味と少しでもかぶるところを人の研究、発表から見出してほしい。研究 者として一人前になった時、この分野でやっているこれが、あの人のやっていたあの分野のこういうところで活かせそうなんだ」という「知の互換性」を見出す 能力を身につけてもらえれば、と期待している。

 

最初の1年を終えるにあたって

今年の9月、このプログラムの第1期生が課程を修了する。この1年で受講者は確実に、着実に人間として大きくなった。そんな感触を持っているとい う。そんな先生が、今後このプログラムに求めるものは2つある。1つは、学校側が交流塾などを開催しなくても、いわゆる「off」のときに異分野の研究者 が自然に集まって議論するような風土をつくること。もう1つは、異分野を理解した上で次は一緒に何かやってみようというコラボレーション能力を磨くこと。

近い将来、京大博士同士の分野を超えたコラボレーションによる新しいプロジェクトが動き出すかもしれない。 (文:井上大輔)