グローバルな視点を身につけるための近道はなく、実際に海外に行ってみるしかない。しかし、日本と異なる文化を知り、生活を体験するだけなら観光旅行で十分だろう。せっかく足を運ぶのであれば、現地で多くの人と濃密に交流しなければ—。

2009年11月、昨年度に続き首都大学東京の学生を対象に「海外インターンシップ入門」が実施され、アメリカにある大学や企業で活躍する人々と交流する機会が設けられた。参加した学生は、このインターンシップを通じてどう変わったのだろうか。 海外を知りたいという気持ち 2009年度の「海外インターンシップ入門」には、修士1年の学生11名が参加した。博士課程へ進学を希望する学生もいれば、就職を希望する学生もいる。専門分野も物理、化学、電気電子、機械と多岐に渡る。このインターンシップは、参加費や時間などそれ相応のコストを支払ってでも参加しようという意欲の高い学生を対象としている。「博士課程進学を考えているので、その選択肢として海外も見ておきたいと思った」。「将来研究者になりたいので、研究者とのディスカッションで自分がどれくらい通用するか試したい」。「日本に来ている留学生と話す機会はあったが、海外で研究している学生と話す機会はこれまでになかった」。「1週間で多くの企業を回ることができるので勉強になるはずだ」。「日本での就職を考えているが、海外の会社を見ることで視野を広げたい」と、参加動機も実に様々。しかし、ずっと日本にいてはわからないこと、実際に海外に行くことで見えてくることを知りたいということが、彼らに共通の想いだ。 大学で留学生や現地の研究者たちと、アメリカ進出した日系企業や米国企業では、そこで働く理系人材と、ディスカッションすることができる今年の「海外インター ンシップ入門」。もちろん、英語で話す場面も数多くある。行く先々の人とどんな話ができるのか、期待と不安の両方を抱えて出発した。 英語と科学が共通言語 学生を最初に待ち受けていた企画は、スタンフォード大学の研究室突撃訪問だ。事前に自分の専門分野に近い研究室を調べ、「ぜひ研究の話をしたい」とアポイントを取り付けてある。現地の日本人研究者とアポイントを取った学生が半数だった中、もう半数の学生は外国人研究者にアポを取り、英語でのプレゼンテーションとディスカッションに挑戦した。決して英語に自信があるわけではない。しかし自ら訪問を申し込んでしまった以上、中途半端なディスカッションをするわけにはいかない。直前まで緊張が取れず、作ってきた原稿をぎりぎりまで読み返している学生もいた。 しかし、実際に訪問してみると、科学という共通言語で進めるディスカッションは、想像していた以上にお互いの考えを理解することができ、結果として多くの意見交換を経て、自分の殻を破ることができたと自信につながったようだ。そもそも、スタンフォード大学には多くの留学生がいる。大学院生8328名のうち留学生は2726名にも及ぶ。そのため、西海岸の研究者たちは留学生を受け入れる機会が多く、様々な文化や考え方を持つ人を受け入れる土壌が備わっているのだ。 やりたいことがあればこそ UCバークレーでは、博士号取得後に起業した人の講演を聞き、いくつかの研究室を訪問した。2つの大学を訪問することで、学生には大きな気づきがあったようだ。機械工学専攻の山本君は「どちらの大学でも留学生は『やりたいこと』を持っています。『やりたいことができる場所』を探した結果、アメリカへの留学を決意した。彼らは、現在も目標に向かって挑戦を続けていて、『アメリカに来ているから成功している』、『アメリカに来ているから偉い』わけではないんですよね」と話してくれた。 留学を考えたとき、日米の大学では多くの制度・環境が異なっており、それぞれに良い点、悪い点があることは考慮するべきだろう。たとえば、アメリカの大学院では学生に給料が支給されるため、生活費、学費を賄うことができる。 留学生の割合も多く、日本の大学に比べて国際的だ。その一方で、設備面では日本の研究室の方が充実していることも多い。当然、言葉の壁も乗り越えなくてならない。様々な点を考慮した上で、本当に「やりたいことがあって」行動することが求められるのがアメリカの大学なのだ。そのことを、学生たちは留学生とのディスカッションを通して感じ取ったようだ。 シリコンバレー「株式会社」 「働くこと」を考える機会は、さらに続く。アメリカ企業のYahoo Inc.と、日系企業である富士通アメリカ、サラダコスモUSA、カルビーアメリカ、帝人ファーマ、月桂冠、キッコーマン各社を訪問し、海外で働く日本人の働き方、社風、渡米の理由や今の悩みを聞いた。最も印象的だったのは、シリコンバレーに拠点を置く会社群をシリコンバレー「株式会社」という1つの会社と見立てる考え方だ。アメリカ企業では解雇や転職が特別なことではなく、3年程度で会社を移る人も多い。転職はシリコンバレー株式会社の社内異動をするような感覚だといわれている。そのため、1の会社にとどまらず、リスクを取ってでも短期間で素早く成果を上げることを重視し、移動を繰り返す。「成果を上げても失敗しても、すぐに別のチャンスを捕まえればいい」と、割り切ることができる風土がここにはある。逆に、これまでの日本で主流となっていた終身雇用制は「4 0年間雇うならどうか」という基準で採用を行う。スピードや短期間での成果を求めるより、長期的な視点を持ってものごとを捉え、やる気やのびしろを評価基準としている。このように日米で慣習を比べてみることで、日本独特の良さ再認識することができ、どんどんチャンスをつかめるアメリカの働き方にも魅力があることがわかる。自分にとってより魅力的なのは、どちらなのか。先輩方の言葉から、キャリアを考えるうえで大切なヒントをもらうことができた。 新たなうねりを巻き起こせ! 「海外インターンシップ入門」を通して様々な人と出会うことで、学生たちには変化の兆候が現れていた。「今感じていることを、帰国して日常に戻ってからも忘れたくない。何か行動しなくては」と口々に言い始めたのだ。アメリカで働く多くの人たちから学んだ、ネットワークの重要、そして何より、スタンフォード大学での突撃訪問のように、そのネットワークを自ら動いて創りだすことの価値に気づいたのだ。 実は、昨年のインターンシップ参加者も同様の想いから帰国後に学部生・大学院生の交流会を企画し、大学からの支援を受けながら活動を継続していた。そこで今年度の参加者たちは、自分たちと同じ経験をし、同じ想いを共有する仲間とともに今後もともに活動できるネットワークを構築すべく、去年の参加者と今年の参加者に加え、まだ参加していない学生までをも巻き込んだ「海外インターンシップ事後研修」を企画したのだ。ともに語り合うことの重要性を感じた彼らが考えたのは、伊豆で行う1泊2日の交流会。互いの研究テーマや、これまで学んできたことを夜通し語り合った。「僕らは、まだ何もやっていない。ここからが本当のスタートです」。明らかに参加者の姿勢に変化が現れていた。 この一連の研修をきっかけに手に入れた、新たな気づきとネットワーク。将来、働く場所がどこであったとしても大きな財産となるだろう。そして、分野の枠を超えた学内の交流は、ますます盛んになっていくに違いない。「海外インターンシップ入門」から生まれた取り組みが、大きなうねりとなって大学全体を巻き込もうとしている。 (文:篠澤 祐介)