財団法人沖縄科学技術振興センター(OSTC)では、2010 年夏、「バイオインフォマティクス人材育成講座」(平成22年度沖縄県産業振興基金人材育成事業「バイオインフォマティクス人材育成推進事業」)を開講する。沖縄県において着々と進む研究基盤整備にともない蓄積される膨大な生物資源情報を利活用し、科学技術と社会、特に産業との架け橋となるような今後の沖縄において必要となる人材の育成を図るのが目的だ。
しかしなぜ、沖縄でバイオインフォマティクスなのだろうか、OSTCの専務理事兼所長の島崎潤一氏に聞いた。

最先端研究に対応できる人材育成は急務

島崎 潤一氏
島崎 潤一氏 (しまざき じゅんいち)
財団法人沖縄科学技術振興センター 専務理事兼所長

「あまり知られていないことかと思いますが、沖縄県は次世代DNAシーケンサーの集積地なのです。2年ほど前、沖縄県は自治体としては全国で初めて次世代DNAシーケンサーを導入しました。そして導入された3台の次世代DNAシーケンサーの管理運用は当センターが任されています。」事実、沖縄県は全国でも有数の次世代DNAシーケンサーの集積地であり、県が導入した3台以外にも沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST)が所有する5台の次世代DNAシーケンサーがあり、沖縄県うるま市に集中している。島崎専務は続ける。「いざ運用といっても県内では最先端の装置を扱え、次々と読み解かれるDNA配列情報を有効に県益に適う産業振興に利活用する人材が少なく、当センターでは、県内で自立的に運用、利活用できる人材の育成が急務と考え、バイオインフォマティクス人材育成推進事業に着手しました。」

研究基盤整備と同時並行で人材育成

平成14年に策定された沖縄振興計画では、日本で唯一の亜熱帯地域である沖縄の地域特有で豊富な農林水産物資源、例えば、伝統的食素材や海洋生物資源等を活用する健康バイオ産業を重点産業として位置づけている。翌平成15年には沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センターを開所、本格的に健康バイオ産業、新産業創出に向けた研究開発が動き出した。沖縄県に次世代DNAシーケンサーが導入された経緯にはこのような背景もあるのだろう。 沖縄県は他地域に比較して教育や研究の水準が決して高いとは言えない。産業においても成熟した状況とは言い難い。現在着実に進行する研究基盤の整備を追い風として受け、今こそ科学技術及び産業振興を推進していく時期にあると言える。一朝一夕にはならない人材育成は、研究基盤等の整備が整ってからでは遅すぎる。人材育成は研究基盤整備の先を見据えて同時並行で展開しなければならない。

バイオインフォマティクス人材育成プログラム

沖縄県の振興は地元の人材が担う

沖縄でバイオインフォマティクスを専門とする研究者、技術者は多くはいない。島崎専務は沖縄において今後必要になると判断したバイオインフォマティクス人材を継続的に輩出するための仕組みとして、沖縄独自のバイオインフォマティクス人材育成プログラムを講座として琉球大学や沖縄工業高等専門学校に導入することを目標の一つに定めて事業を立ち上げた。沖縄独自としたところには、沖縄県の振興を願う気持ちが込められていると感じた。沖縄の地域特有な農林水産物資源の生物学的情報の利活用と産業振興を、全国でも最も地元に愛着をもつ沖縄県民にこそ担ってもらいたい、島崎専務もまた沖縄が大好きなのだ。

この夏の開講を目前に、人材育成講座のカリキュラム策定が着々と進む。計画から実行までが早かったこともありスケジュールはタイトである。しかし、バイオインフォマティクス人材育成講座の趣旨に共感した県内外の多くの先生方が同人材育成講座成功のため惜しみない協力でこれを支えている。国立遺伝学研究所、理化学研究所、産業技術総合研究所、沖縄科学技術研究基盤整備機構、東京大学、琉球大学、沖縄工業高等専門学校、バイオインフォマティクス関連企業、錚々たる講師陣が沖縄のためのバイオインフォマティクス人材育成講座を展開する。島崎専務をはじめ関係者の人材育成にかける思いは同講座の成功に託され、また同講座でバイオインフォマティクスの知識・技術を習得した受講生に引き継がれ、沖縄ならではの科学技術及び産業振興が自立的に発展し続けるものと期待している。

管理団体:財団法人 沖縄科学技術振興センター
理事長:諸喜田茂充(琉球大学名誉教授)
専務理事兼所長:島崎潤一
所在地:〒900-0029 沖縄県那覇市旭町112-18 沖縄県旭町会館2階
設立:平成8年10月 財団法人亜熱帯総合研究所
平成20年8月 財団法人沖縄科学技術振興センター(名称変更)
事業内容:亜熱帯地域島嶼地域等の有する諸問題等に関し、学際的、総合的に研究すること等により、沖縄県の振興開発のみならず、日本及びアジア太平洋地域の学術・研究の振興に寄与することを目的として、財団法人亜熱帯総合研究所が設立され、平成20年8月、新たに沖縄県の科学技術の振興を支援する中核機関としての役割も担うため、財団法人沖縄 科学技術振興センター(現組織)に名称を変更した。平成22年度の主な事業として「マリンバイオ産業創出事業」、「先端バイオ研究基盤高度化事業」などに取り組んでいる。
URL:http://subtropics.sakura.ne.jp/
INFOMATION:バイオインフォマティクス人材育成推進事業では、企業コンソーシアムを構築し、企業が求めるバイオインフォマティクス人材を企業と一緒に育成するシステムをカリキュラムに導入することを計画しています。沖縄県内外を問わず参画企業を募集いたします。