現在、3D-Gene®に関する研究費を募集しています(申請締切2011/3/31)。3D-Gene®を使って研究した若手研究者の方々からの申請をお待ちしています。

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東レ株式会社 新事業開発部門
近藤 哲司(こんどうさとし)さん

大学時代には研究レベルだった製品が商品となって現れる。気 の遠くなるような時間がかかる話だと、近藤さんは思っていた。しかし、その考えは入社後覆された。近藤さんが現在担当している3D-Gene®という DNAチップは、感度が高いことが強みであり、他社製品では難しい実験も行うことができる。実は、近藤さんは大学時代にDNAチップに関連する研究をして いた。

 

 

研究対象の技術の普及に疑問を持った大学時代

今から10年ほど前、近藤さんは、フォトリソグラフィの技術を応用する研 究をしていた。フォトリソグラフィとは、基材に線を書くように光を当て、細かい溝を入れる加工技術のことだ。主に半導体やプリント基板を製造するために使 われる。一般的なDNAチップを作製するときにも応用されている技術だ。
京都大学工学部に在籍し、高分子研究を行っていた近藤さんは、これをバイオ分野に応用できないか検討していた。近藤さんが挑戦したのは高分子の基材の表面 にタンパク質を固定すること。例えば、サイトカインをフォトリソグラフィのパターンに従って固定し、細胞や組織の機能を制御することで新しい生体材料が作 れないかと期待していた。このような研究には、フォトリソグラフィという工学技術をバイオ分野の技術・製品に応用するという意味があ
り、意義のある研究であったことは間違いない。しかし加工技術に携わっていた近藤さんは「当時論文レベルで発表されていたDNAチップが本当に商品
として普及するのか疑問に思ったこともあった」と話す。大学の研究室レベルで行われていることが、産業界で応用されるまで何十年もかかるのは常識と言ってもいい。だから、自分が会社に入ってDNAチップを扱うようになるなど、その時点では考えてもいなかった。


点と点がつながる

近 藤さんが東レに入社して最初に取り組んだ研究はバイオ分野ではなく素材研究だった。研究テーマは「ディスプレイパネル表面のコーティング」。大学時代には タンパク質も扱っていたとはいえ、高分子材料についても学んできた。近藤さんにとって、コーティング素材の研究をするのは特に不自然な流れではなかった。 ポリマーの物性に関する知識や素材加工の技術を活かしながら取り組めたという。表面コーティング研究のプロジェプロジェクト終了後の異動で、配属されたの がDNAチップ3DGene®を扱う新事業開発部門。そこで近藤さんは技術営業――技術をわかりやすく伝えていく仕事――に携わっている。新事業開発部門 に異動が決まったときは素直に嬉しかったと言う。「昔やっていた技術分野であり、知識が活かせそうだ」と思ったからだ。加えて、東レのコア事業分野の「バ イオ」と「素材」が融合するテーマであることも、励みになった。入社時には想像もしていなかった仕事だったが、3D-Gene®によって、近藤さんがこれ までに東レで取り組んだ2つのテーマと大学での研究がつながることになったのだ。

素材とバイオと統計の専門化がチームとなる

3D- Gene®を扱うチームでは、異なる専門性を持っているメンバーが集まっている。近藤さんのように素材とバイオを知るメンバーもいれば、分析に必要な統計 の知識を持つメンバーもいる。DNAチップのデータを解釈するには、チップ上での反応がどうなっているか、膨大なデータをどのように統計分析するか、そし て、その差が持つ生物学的な意味は何かということを理解していることが必要だ。東レの研究者たちは、チップを自社開発したことから、
チップの特長 をよく知っている。統計分析の知識も豊富にあり、生物学的見地からの解釈に必要な知識も備えている。さまざまな知見から適切な解析手法のアドバイスを貰え ることは、東レの強みである。近藤さんは「チップ購入者の5割以上が解析サービスも依頼してくださっています」と話す。研究の世界の変化は激しく、1人の 力だけで多様な解析技術のすべてをカバーするようなことはできなくなっている。多分野の知識を動員する必要性は増していくばかりだ。こうした外部のサポー トは研究者の心強い味方となるだろう。

研究の世界は想像を超えたスピードで変わりゆく


近藤さんの今の仕事は、大学時代からは想像もできないものであった。今の部署に移ったことで、近藤さんは研究・開発の世界の変化スピードを強く意識するこ ととなった。大学で研究していた当時はありえないと思っていた技術が商品になるという体験をすることができたのだ。そのインパクトは1人の技術者として見 過ごせなかった。そして今も研究・開発は続けられ、次々と新しい研究ツールが登場してくるだろう。「我々の想像を超えたスピードで研究ツールは発展しま す。学生時代の私の考えはいい意味で裏切られたように、これからも皆さんの期待を超える製品の開発に関わりたい」。と近藤さんは研究に取り組む若手に呼び かける。今まさに次世代の技術を作っているのは、読者のあなたなのだ。

(文 篠澤 裕介)