徒然なるままに、若手研究者応援プロジェクトについて、特に若手研究人材のキャリアという面に関連することで、いま考えているところを書いてみようと思う。「下書き」にずっと入っていたエントリーなんだけどアップしてしまおう。
 

このプロジェクトは、2年前に立ち上げた。正確には、incu-beという自社で進めている若手の研究キャリアを応援する活動(雑誌やセミナーなどのサービス)をはたで見ていて思いついた。いまでは、incu-be自体もプロジェクトに融合するような感じで進めているけれど、プロジェクト以前からあったサービスはincu-beだ。それで、第1回リバネス研究費を始めたのが、2年前くらい。

 

何はともあれ、このプロジェクトの最も大きな特徴は、リバネスが運営している、ということだと思う。言うまでもなく、リバネスは若手研究者が立ち上げた会社である。40人の社員はみな理工系の専門性を持っていて(バックオフィススタッフを除いて)、そのうちの半数以上が博士号を持っている。若手研究者であり産業界の一員であるリバネスが両者の間に立ち、大学の若手を応援するプロジェクトをするというのが大きな特徴で、とても大切な点。ちなみに、第1回のリバネス研究費では、当時の自社の(微々たる)利益のほとんどすべてを若手研究者に配ってしまった。この研究費を作ることに社員全員が賛同してくれて、(ボーナスを主張することもできたのに)このプロジェクトのスタートに協力してくれた。これは、すごいことだと思うし、発案した身としては本当に感謝している。

 

すこしばかし昔話になってしまうけど、15名の理系大学院生が集まって有限会社リバネスを設立したのは、20026月だ(ちょうど日韓ワールドカップが開催されていた時)。僕は当時まだ修士2年生だった。なんで急にそんな話を持ち出したかというと、このプロジェクトの軸になっている考え方のすべては、今考えるとその当時の体験や考えたことが基になっているからだ。

 

ご存知の方も多いと思うけど、理系の大学院に進学して半年位経つと、就職活動の時期になる。就職を希望する学生は、スーツを着て会社周りをしながら、大学院生としての研究生活を送ることになる。僕の回りで修士を出て就職を希望する仲間たち(その多くは研究職を希望していたわけだけど)も、修士1年の冬くらいからは研究室のパソコンでもひたすらエントリーシートを書いていた。専門性を生かしたキャリアを築くためには、専門性を鍛えるはずの研究活動を抑えなくてはならないというのも変な話だ。でも、既存の就職のしくみのなかではやむを得ないよね、という雰囲気だった。


大学院生にもなっているのだから、キャリアの第一歩を決定する時期としては決して早くは無いわけだけど、その当時は、たった半年の研究経験で、就職するか、博士に進むかの二者択一を迫られるのはやはり厳しいと感じた。同時に、誰それは研究向きだの就職向きだの話を周りで聞くたびに違和感を感じた。

 

結局、僕は就職活動をせずに博士課程に進んだわけだけど、決して社会に出て働くことに否定的だったわけではない。むしろ興味や関心は社会に向いていた。そんなわけでリバネスを創るというアイデアに真っ先に乗っかったわけだ。

 

何はともあれ、僕は、その当時からこの二者択一式のキャリア選択を強いる現状のシステムを変えたいと思い続けている。研究にのめりこんで成果を挙げ、それが将来の研究キャリアにつながる、という自然な形をあたりまえのものにしたい。もちろん、現状でも大学内でのキャリアについては、そういう流れはある程度機能しているんだと思う(そんなことはない、という意見も当然あるとは思うけど)。ただ、産業界への研究キャリアということを考えると、現状では明らかに博士課程と産業界の接続は悪いと思う。若手研究者を採用する側も、採用される側も、ほとんどは既存の就職システムの中に組み込まれてしまっていて、結果としてミスマッチが起きている気がしてならない。あるいは、既存のシステムから外れるキャリアに対して、適切な打ち手を出せていない。仕事柄、人事の方とも学生とも話をする機会が多いけど、若手研究者、特に博士人材の就職については、双方が現状の仕組み(というのが仮にあったとしても)に不満を感じているのは間違いない。企業側からすれば、自分たちに適した研究人材を見つけるために、既存の枠組みはあまりに効率が悪い。リクナビ的なサービスは、優秀な研究人材の採用、研究人材のキャリア形成に関しては最適ではないというのは明白だろう。

 

少し話がそれてしまったかもしれないけど、例えば産業界側が(自社ニーズも含めた形で)研究費を作ったら、その分野のやる気のある研究者に若手研究者が集まってくる。その結果として、企業と優秀な若手との直接的な接点ができる。そういう接点をできるだけ多く作っていけば、二者択一ではない研究キャリアの形成のしくみができるのではないだろうか。そんなアイデアを形にしたのがリバネス研究費だ。
 

リバネス研究費は、企業のCSR活動だと大学の方には思われている節もあるけれど(もちろん、そういう側面もある)、実際には、それだけを達成したいと考えているわけではない。僕は、研究費をコミュニケーションのツールとすることで、企業と若手研究者の直接的なつながりを広げたいと考えている。実際、若手研究者応援プロジェクトに参加している企業の多くは、申請テーマだけでなく、そのテーマを研究している「人」に興味を持ってくれている。それは運営者としてはとてもうれしいことだ。

 

余談だけど、先日、母校である東京工業大学の副学長の先生とお話をしていたら、「産学連携っていうのは元来は人材育成なんだよ」ということをおっしゃっていた。まさに我が意を得たり。

ちょっと話は飛躍してしまうけど、現在、技術を中心とした産学連携が幅を利かせすぎていると感じている。漠然とした話になるけど、もっと人を中心とした産学連携を見直すべきじゃないかと思っている。特許技術の権利よりも、 技術を生み出す可能性を持った人材の方が投資価値はあると思う。産学連携という話をしたとたん知財部が出てくるっていうのはそろそろ終わりにしたい。